昼休み。5分間休憩をトイレに行って誤魔化してきたにとってこの長い休みは一番の天敵だった。 教室にいればクラスメイト達があれやこれや聞いてくるだろう。特に左斜め後ろにいる変な帽子の男たちは色々自分に聞いてきそうだ。はそう思ったので、チャイムが鳴ると同時にコンビニの袋を持って教室をするりと抜け出した。 「あー!」 「おらへんわぁ。あの転校生」 『どうやら逃げたようだな(# ゚Д゚)』 ボッスン達三人は教室内を見まわし廊下まで出てみたがもう転校生の姿は一欠けらも見えなかった。 「転校生の前でスケット団の宣伝をするんはアタシらの決まりやったのになぁ」 『オレなんてもう中国人の鬚を付けてしまった』 「…しゃーねーよ」 それにしても、とボッスンはスイッチの鬚をむしりながら思った。 どうしてあの転校生はそんなに人を避けるのだろうか。見た目あんなにいいし、背も高いし、勉強も出来るみたいだったし、一体何が不満だと言うのだろう? 「そこがなんか、気に入らねえんだよなあ」 「なんやねんボッスン」 「なんでもねえよ」 さては教室を離れ一人階段を昇っていた。上へ昇ればきっと屋上があるだろう。そこなら少しは楽に息が出来るかもしれない。 「おい」 昼ご飯は行きがけにコンビニで買ってきたパンと牛乳。母が作った弁当は持たずに家を出てしまった。 「おい、そこのお前」 弁当なんて作らなくても良かったのに。私はどうせ母の作った弁当を食べないのに。食べたく、ないのだ。(悪いけれど) 「そこのお前だ!」 突然肩を掴まれ、は不機嫌そうに振り向いた。そこには自分よりほんの少し背が低くて前髪が短くて下まつ毛がばしばしの男子生徒が立っていた。 「何の用だ」 低い声では呟く。目の前の男子生徒は苛々しながら制服を指さしてきた。 「その制服はなんだ!きちんと指定の制服を着てこい!」 「これは昔この学校の指定制服だったものだ」 「む、昔はそうだったかもしれないが今の指定はこのブレザーだ!」 「そうか」 それだけ言ってはまた階段を昇りはじめた。すると凄い勢いで男子生徒が自分の前に仁王立ちする。その様子は大変偉そうだったので、はそいつを突き落としてやろうかと一瞬画策する。 「貴様、名前は」 「・。今日2−Cに転校してきた」 色々否定するのも面倒だったのでは偽名を口にする。偽名は適当に考えたものだ。最初はこの制服を着ていた人の名前にしようかと思った。けれどそれでは母たちが心配するだろう。母たちの世話になりたくないと思うと同時に、心配をかけたくはなかった。 ふと目の前の男子生徒の腕に掲げられている腕章に目が付いた。その字を読んで思わずため息をつく。相変わらず偉い人たちは私が嫌いみたいだ。(髪の毛のせい?目の色のせい?どうせ私が人と外れてるからでしょ) 「そう言えば今日転校生が来ると言っていたな。お前がそうか」 「ああそうだ。それでこれは昔この学校に通っていた兄のもので、サイズがぴったりだったから新しいものを買うこともないと私はこの制服を着ることにしたんだ。制服だって安いものじゃないから親の負担を減らせるだろう?だからこの制服についてああだこうだというのは止めてくれ。それにこの学校は一応制服があるものの基本的には規則はないと聞いた。あとこの髪の毛は地毛だ。染めていないし脱色もしていない。目の色も残念ながら生れつきで、カラーコンタクトではない」 それだけ一息で言うと、はその琥珀色の目で男子生徒を見詰めた。その目が随分と冷たかったので彼は言葉に詰まる。 「す、すまない」 「分かればいい。そこを退いてくれ」 「ボクは椿佐助だ」 退く代わりに彼は名乗った。は呆れたが、黙ってそのまま椿の横をすり抜けて屋上へと上がって行った。 (すまないことをした) と、椿は思った。彼は馬鹿正直なので自分が悪いと思ったことはとことん反省する癖があった。しかし今回の反省にはどうしてか、別の気持ちが混ざっているようだった。 (それにしてもボクは、どうして名乗ったりなんかしたんだろう?) 椿の目にはさっきのと一緒にいた情景がフラッシュバックする。階段の窓から零れ落ちる光がの髪の毛に反射して奇麗だったとか、どうしてか桜の匂いがしたとか、そんなことを。 (男相手に、奇麗なんて) おかしいと思いながら椿は自分のことを笑えなかった。 やっと屋上についたはパンと牛乳を広げた。牛乳は少しぬるくなっていたのでもう買うのは止めようと思った。そして焼きそばパンにかぶりつこうとした瞬間、後ろの扉が開いた。 さっきの奴だったら嫌だなあと眉をしかめたの前に立っていたのは、茶色の髪にゆるいウエーブをかけた背の高い男子生徒だった。 「あ、ごめんね。ちょっと隠れさせてね」 そう言ってその生徒は屋上の扉に鍵をかけ(は少しだけびっくりした)、息をひそめて扉の外の様子をうかがった。 (榛葉様どこぉ?) (屋上はかぎがかかってるから違うわね) (別のところ行きましょ) 足音が聞こえて、声が何も聞こえなくなると彼はやっと安堵のため息をついた。 「毎日毎日こうだとさすがのオレも疲れるな…って、ごめんね。鍵はもう外すから」 かちゃんと鍵を外し、その男子は当然のようにの隣に座って来た。は五センチほど彼から離れた。 「オレ、榛葉道流。君は?」 にこにこ笑っている顔はとても奇麗な顔だった。だから女の子に追いかけられていたのか、とは納得して、その笑顔に騙されてしまったのか小さな声で返事をした。 「・。2年」 「そっか。オレは3年」 はまじまじと榛葉の顔を見た。その顔は相変わらずにこにこしていたので、は一体この人がなんで自分の隣にいるか、分からなくなった。でもなんだかすごく嬉しそうだったので放っておくことにした。 「ちゃん、コンビニのパンだけじゃお腹減るよ」 「別に。あと、ちゃん付は止めてくれ」 「オレさあ、生徒会に入ってんだけどその生徒会の2年の男の子もちゃん付で呼んじゃうんだ。だから許してよ」 ね?と整った顔で言われたらなんだか馬鹿らしくなったのではそのままパンを食べていた。 「ああ、これあげるよ、ちゃん」 「ん?」 榛葉の手にはピンクの柔らかい布でラッピングされた何かがあった。ゆるりとそれを風と一緒にほどくと中からはクッキーが出てきた。どれも星やハートなど可愛らしい形をしており、バニラのいい匂いがしていた。 「オレが作ったんだ。…ってヒかないでよ」 はもう五センチほど榛葉から離れていた。 「オレ料理作るの好きでさ、よく作って来てんの。で、本当は生徒会のみんなにあげようと思ってたんだけど、なんか君にあげたくなったからあげるよ」 「…別にいい」 はつんと横を向き、相変わらず焼きそばパンを食べていた。冷たい焼きそばパンはどうしてこんなに寂しい味がするのだろう? 「ほら」 くいと顎を掴まれ唇にクッキーを押し込まれた。思わず焼きそばパンを飲み込み、そのままクッキーも飲みこんでしまう。冷たい苦い焼きそばパン、少しだけ温かい甘いクッキー。変な組み合わせのはずなのに、どうしてか凄く美味しく感じた。 「美味しい」 「全部あげるよ!君に」 榛葉はにっこり笑い、屋上の扉に手をかけた。 「じゃあ、またね。ちゃん」 「あ、ありがとう」 なんと彼を呼べばいいのだろう、そんなことを思っている間に榛葉の姿は消えていた。 「安形」 「なんだミチル。へらへら笑って気持悪い」 「オレ、今日すっげー可愛い子見つけちゃった」 「へー紹介しr」 「男の子だけどね」 にっこりと邪気のない顔で笑って、榛葉は安形の言葉を断ち切った。 (安形なんかに言ってたまるか) そう思って道流はいっそうにこりと笑った。 また会いますよ、 きっと 次 ---------------------------------------------------------------------------------------------- 2009/1/22 疲れた。3ページで終わんなかった。椿出したところで終わればよかった。 この連載物は頭使わずに書いてるので変な文章よろしておくんなまし。 というわけで生徒会メンバー登場です。椿と道流。ミッチーはもちろん女の子だということに気付いてますよ。 椿は気づいてないですね┐(´д`)┌ 次回はもうちょっとゆっくり真面目に文章書きたいです。 |