のことを、会長は一体どうしたかったのですか」
ボクがそう言った時、生徒会室にはボクと安形会長の二人しかいなかった。会長は薄く笑い、ボクを見る。
「どうしたかったと思う?」
机に肩肘をついて彼は言う。ボクは唾を飲み込む。静寂が落ちて、ボクはばらばらに砕けてしまいそうになる。
「少なくとも、はあなたのことを好きでした」
「ああ、そうだろうなぁ」
どうしてだろう。ボクにその人の笑みは優しいものにしか見えない。にとってもそれはそうだったのだろうか。だったら、なんて悲しい。
「会長は、のことが好きではなかったのですか」
「男はそう簡単に好きなんて言えねえよ」
「ボクが言いたいのはそういうことではないです」
かっかっか、と会長の笑い声が部屋に響く。それでもさっきばらばらになった静寂は消えない。ボクは苦しくなる。
の手を思い出す。噛みすぎてぼろぼろになった手。それ以上にぼろぼろになった彼女。悲しい、ボクは悲しい。
「ボクにとっては大切な人です。お願いです会長、に謝ってください」
「どうして?」
本当に不思議そうに、けれど笑いを止めずに彼は言う。ボクは言葉に詰まる。彼がこんなことを言うなんて、ボクは予想していたはずなのに。ああ、それなのにああ。
「あなたが謝れば、ボクは少しはが救われるのではないかと思うからです」
「馬鹿だな」
お前は、と会長は言って、椅子から立ち上がった。ボクより随分背の高い彼が見下ろしている。ボクは泣きそうになる。ああどうして、どうして。ボクはあなたのことを本当に本当に尊敬していたのに。
「俺はのことが好きだったよ」
その言葉の後ろに含まれている言葉を、ボクは知らない。
「お前よりもずっと、ストレートに、のことが好きだったよ」
会長がどんな風にを愛したのか、ボクは分からない。
「裏切ったのはだ」
がどんなことを会長にしたのか、ボクは知りたくない。
彼女は真面目で純粋だっただけだ。ああそうだ、そうに決まっている。
でもボクは少しだけ知っている。純粋は毒なのだと。彼女のあの無垢は、本当に毒なのだと。
はあなたが好きだっただけです」
精一杯絞り出した声は、粉々に砕けて死んでしまった。会長はまたあの笑い方をして、ボクを見下ろす。
「でも愛し方が分からなかった。そんなを、壊してしまったのはあなただ」
言ってしまって、ボクは後悔する。会長は微笑む。
「椿は優しいな」
「え」
はお前に少しだけ似ているよ。優しくて、純粋で、俺は好きだったけどどうしようもなくイライラしてた。を壊す気なんてなかった。俺がしてしまったことで、が壊れてしまった。それだけさ」
謝る気はない、と彼は言った。優しい声で、優しい笑顔で。
彼は自分がしてしまったことを後悔していないし、悪いとも思っていない。
ああ、ボクは一体どうしたら。

夜中に鳴った電話は冷たくて、ボクは急いで彼女の元に行った。
彼女は震えて泣いて、ボクにすがりついた。手からは血が流れ、顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
怖い、怖いの椿。お願い傍にいて。泣きながら彼女はそう叫んだ。
ああボクは知っている。
彼女を壊したのは会長なんかじゃない。
彼女を壊したのは、彼女が壊れてしまったのは、彼女自身のため。
優しくて純粋で無垢な彼女が壊れたのは、

は、あなたが好きだっただけです」
ボクは泣きそうになりながら言った。
「お前は、そればかりだな」
会長は笑いながらドアを開けた。冷たい空気が一気に流れ込んできて、ボクは目が覚める。
「お前自身の気持ちは、何にも言わずに、そればかりだ」
そうして少し笑って、彼は部屋を出ていった。後にはボク一人だけが取り残される。

どうして恋というものがこの世にはあるのだろう。
どうして身を滅ぼしても止まらない気持ちがこの世界にはあるのだろう。
を壊したのは、「会長が好き」だという彼女自身の気持ち。
の世界の全ては、彼じゃなかった。
でも恋をして、の全ては彼になってしまった。
その全てがなくなったから、彼女は壊れてしまった。
ボクは悲しい、悲しい。
「どうしては会長を好きになったんだ」
悲しい気持ちでそう呟くと、会長の笑い声が聞こえるような気がした。
手をぎゅうと握る。いくら力を込めたって、血なんか出やしない。これがこの世では正しいのだ。
会長はきっと、ボクの言葉を聞いたらこう言ったはずだ。
笑いながら、優しい笑顔で。
ボクはそれが、たまらなく悔しい。




「ほらまた言った」





(ボクがどうしたいかだって?そんなこと分からない。ただボクは悲しい。悲しい)



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迷走状態だけど出口に向かっていると信じつつ書いています。
本当は恋に、どちらが悪かった、というものは存在しないと思います。
だから責めても何も始まらない。それでも責めたくて、誰かを問い詰める。
ちゃんに、椿に必要なのは、誰かを好きだった、ということではなく、これから何をすべきか、ということです。
好きだった気持ちはとても大切なもので、それをなくせと言っているわけではなく、その気持ちを持ちながら、新しい毎日を生きることが大事なのだと私は思います。
それが難しいんだけどねー。というお話。でも多分この二人の場合、たった一つの言葉で救われると思うんだけどなぁ…というわけで頑張って続き書きます。
ちなみに安形はもう退場だよ!!(相変わらず安形の扱いが酷いね!)
タイトルは「repla」さまからです。
2009/03/19






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