※ここでは自傷行為に近い描写が出てきます。
不快に思われる方はすぐにページを閉じてください。



























































 夕暮れに沈む生徒会室。その窓際には座り足をぶらぶらさせている。の目の前には安形会長の机があるけれど、彼女はそんなの知らんぷりだ。
「椿ぃ」
「なんだ」
変な声でがボクを呼んだのでボクは眉をひそめ彼女を見る。やっぱり彼女は自分の手を痛いぐらい噛んでいた。またか、とボクは呟く。
「あたし、帰りたくなあい」
「帰ろう、
そして明日病院に連れて行こう。そう考える。手を噛む周期が大分短くなっているし、何よりも噛む力が強くなっている。最初は甘噛みのようなものだったのに、今では血が出るぐらいになっている。ほら今だって血が出てきたじゃないか。ボクは苦しくなる。
、手を出して」
「はい」
いつも制服のポケットに入れている包帯で彼女の手を巻く。こんなにも綺麗なのに、彼女の手は小さくすべすべとしていて爪も整っていて綺麗なのに、どうして自ら傷つける?ボクはそれが悲しい。
「椿の手当はとても綺麗ね」
「…終わったぞ」
顔を上げるとは嬉しそうに笑っていた。ボクはその笑顔が前とちっとも変っていなかったので胸が痛んだ。でもこれは忘れてしまった笑顔なんだ。彼女は大事なことを『忘れてしまって』こうして今『微笑んで』いる。
が窓際から飛び降りる時、会長の椅子を蹴飛ばして倒した。
「あら、ごめんなさい」
「いいや」
ボクは椅子を黙って直す。はじっとそれを見ていた。
「ねえ、それ、誰の椅子だったっけ」
「会長のだ」
「会長って、誰だったっけ?」
首をかしげ彼女は尋ねる。ボクは知らなくていいと首を横に振る。それで納得した彼女は鞄を取りボクの手を握る。ボクの隣で笑うは可愛い。でもその可愛いも、本当は壊れてしまった後ので、ボクは彼女を壊した人を知っている。
それはが忘れてしまった人で、忘れようとした人で、今、蹴飛ばした椅子の持ち主だ。
ボクは会長を尊敬していたし憧れていた。でも彼はこの可愛い幼馴染を壊してしまった。ボクはどうすればいいのかわからない。
「ねえ、椿、あたしね、今幸せなはずなの」
お父さんとお母さんも優しいし、椿もいてくれるし、友達だっていっぱいいるのに。
それなのにどうして毎日苦しくて吐きそうで重たくて泣きたくて悲しいの?
血が出るほど手を噛んで自分を傷つけなくては気が済まないの?
「わからないわ」
わからないの、という彼女の声が悲しそうだったので、ボクは手をぎゅっと強く握って微笑んであげる。
そして明るい声で、早く帰ろう、と言うのだ。今日我が家はすき焼きだから、も一緒に食べよう、そう誘う。
は笑顔で頷き、ボクたちは幸せそうに家路を辿る。

でもボクたちの前にはいつも、いつも、彼が在るのだ。
彼の顔は見えない。後ろを向いている。後ろを向いている癖に、いつもボクたちの前にいるのだ。
ボクはそれを、悲しく思う。




いつも背を向けて




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自傷行為を否定するつもりも肯定するつもりもありません。私にはそんなことを言う資格さえありません。ただこれを読んで不快に思った方がいればこの話は下げます。
苦しくて苦しくてならない時、どうしようもないイライラをどうしても自分にぶつけてしまう子の話を書きたかったのです。
タイトルは「repla」さまから。<癖>シリーズなので、続いています。



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