闇憑き


なにもみえないなにもきこえないなにもふれないなにもなにもなにもわからない。
こう落としたのはあなたで、あなたはもう満足ですか。
私の全てを奪えばあなたはこのまま一生死ぬまで笑っていられるのなら、ああとても安い犠牲。
「***」
あなたが私の名を呼ぶ気配がする。声は聞こえない(あなたが私の耳を塞いだから)でもあなたの声だと分かります。
「***…」
あなたが私を抱きしめる気配がする。温もりは分からない(あなたが私の体温を奪ったから)でもあなたの温かさだと分かるのです。
そうしてあなたはきっと、私にキスをしたのですね。その時にちらほらと涙の雨が降る。(いつものことだもの、何も見えなくとも分かるわ)
あいしてる、
愛してる、
愛してるわ、大好きなあなた。


あなたの名前すらもう思い出せないけれど。





***

(それは残酷な彼女を閉じこめた筈の相手の事)


彼女が闇に取り憑かれたのは一体いつだっただろう。
彼女に俺の声は聞こえない俺の温もりは分からない俺の姿は見えない何も何も何も彼女には届かない。
彼女は俺が彼女をそう落としたのだと思っている。願わくば、一生死ぬまで彼女がそう思いこんでいることを願う。

彼女の体をばらばらにはじき飛ばしたあの事故のことなど全て覚えていなければいい。自分の体がただもう脳だけになってしまったことなど、分からなければいい。(ああそれでも生きていなければならないというのか現代の無慈悲な医学よ)
何も彼女に届かない。俺も彼女を手に入れられない。それでも俺は毎日君の元へ向かうよ。
君に毎日話しかけるよ、君に触れるよ。(ガラス越しに)
愛してるよ、愛してる。愛してるんだ。




君の本当の姿を、僕はもう覚えていないけれど。






(これは二人ともお互いを知らない物語)






ある意味とても倖せな愛の形。




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