人が死を忘れた世界





本を読んだ。
大人にならないこどもたちが出てくる本だ。
その世界ではこどもはこどものままで、老化もしないし病気もしない、怪我をしてもすぐ治る、だから彼らは死ぬことがない。

「と、いう世界はどうですか、佐介くん」
「馬鹿馬鹿しい」

そんな世界、あるわけない、とまた眼を書類に落す彼。
ここは彼と私二人きりの生徒会室。誰もいない。窓の外には運動部の声が聞こえる。秋が遠い。世界が遠い。

「ねえ、ここもさ」
「ん?」
「ここもさ、今、その世界みたい、じゃない?」

小さな小さな生徒会室で、いるのは私と佐介の二人。
わたしたちは子供たち。
このままここで凍ってしまえれば、私たちは永遠に子供のまま。
老化もしないし病気もしない、怪我をしてもすぐ治る、だからわたしたちは死ぬことがない。

「ばかばかしい」

けれど今度は目を書類に落とさずに、じっと私を見る佐介。
その目は怖い、と言ったのはいつだっただろう。たぶん、小さな頃のひどい言葉。佐介が忘れていればいい。ああでも、彼は私の言ったことは全て覚えている。

「ねえ佐介、このまま、わたしたち、時間がループして止まればいい」

永遠の子供のまま、わたしたち、死ねずに漂えばいい。

「ばかか」
「ばかです」
「僕は子供のままでいたくない。今は死にたくないが、永遠に生き続けるつもりもない」

現実見の彼はそう言って、やっぱり私から目を離さない。

「でももし、ここで止まってしまったら、どうしますか」

ばかな私の言葉はやまない。
可哀そうで優しい佐助は答えてくれる。

を押し倒して子供を作って、僕たちは大人になる」


おしまいだ、と呟いて彼はまた、仕事に取り掛かった。
そういうことを言ったんじゃないのになあと思いつつ、佐介が最後に答えてくれた言葉が嬉しくて、なんだかにやにやしてしまった。
仕事が終わったらいっぱい、佐介に甘えてあげよう。


おわれ

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注意書きいらないよね。知らんよ田仲。
大人になれない子供たちの元ネタは「スカイ・クロラ」のキルドレから。
映画は見てないけど小説は読んだ。面白かった。(感想終わり)
お題は「Paradox」さまからお借りしました。













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