あいつのことを、俺はもう忘れようと思った。
いきなり無視したりすると逆に目立つから、きちんと会話はして。でも当たり障りのない、つまらないことばかりを話す。
煙草も注意はするけれど、前みたいに無茶苦茶怒らない。へらへら笑いながら取り上げるだけだ。
あいつの反応は変わらない。付きまとっても付きまとわなくても、傍にいてもいなくても、結局俺は変わらなかったのだ。
あいつにとって俺はそうだったのだ。
あいつにとって俺は、本当に要らなかったのだ。
俺は毎日へらへら笑っていた。朝起きて飯食って、学校行って生徒会の奴らと会って、家帰って寝る。その間人といる時は大体へらへら笑っていた。それは本当に楽で、このまま消えてしまえたらと思った。そうしたら皆俺の笑顔だけ覚えてくれるだろう。それがいい。それでいい。俺は、満足だ。
時々校内で緑の髪の毛を見た。あいつはまるで一センチ空中を歩いているかのようなふやふやした足取りで、世界の全てが気に入らないと睨みながら歩いていた。あいつは変わらない。ちっとも、変わらない。
その証拠に髪の毛は緑のままだし、煙草もちょくちょく吸っていた。俺は何も思わないことにした。もう何も思えないんだ。悪いな。
悪いな、俺にとっても、お前はもう、要らないんだよ。
別に女に不自由してるわけじゃない。誰かに告白されたら付き合えばいいし、気に入らなきゃ別れればいい。そんで大学行って会社入って結婚して子供作って年とって死ぬ。そんだけだ。
その未来の中に、もう、お前はいない。
俺とお前の道は逃げようがないぐらい離れちまったんだな、ああ。

一センチ浮いている足取りで、お前は歩く。
俺はどかどかと、地を確かめながら歩く。
ふわり緑の髪の毛をなびかせて、お前は煙草を吸う。
俺は短くて固い髪の毛を触りながら、へらへらと笑う。

それでも、それでもなあ。
どうしてか最近眠れないんだ。飯も食いたくないんだ。何もしたくないんだ。
目をつぶればお前の緑の髪の毛ばっか、目に入るんだ。
優しいものになりたかったと、そう言うお前の、お前の、声や仕草を思い出すんだ。
俺はお前を忘れたいのに。
だって、俺はお前がこんなに好きなのに、お前に見てもらえないなんて酷すぎるから、だから忘れてやろうと思ったのに。
それなのに消えてくれない。
あの緑の髪が、細い肩が、煙草を揺らす唇が、俺をぐるぐるにして俺は起き上がれなくなる。
「ああ、
俺は名前を呼ぶ。数日ぶりに名前を呼ぶ。けれどもお前はここにはいない。
見えるのに、俺の心の中にはこんなにもはっきりとお前の姿が見えるのにどうして。
…好きなんだ」
枕越しに呟いた声がぐしゃぐしゃになって、俺の心もぐしゃぐしゃになって潰れてしまった。

あの肩に、頬に、髪の毛に触れたい。
の声を聞きたい。馬鹿と言われたい。肩に顔を埋め泣いてしまいたい。
そして、がこっそり泣いているのを、震えているのを感じたい。
ああ俺は今まで沢山のものを無視してきた。怖かった、怖かったからだ。でもこの感情に比べれば、踏みだすことなんて取るに足らない。
ぼろりぼろりと涙が出る。嗚咽も出る。苦しかった。でもだって苦しかったんだ。
ごめん、ごめんなあ。いないに謝る。
本当は泣いているお前の涙を拭えばよかった。本当は震えているお前に無理矢理キスしてしまえばよかった。

涙は頭を叩き、俺は息が出来なくなった。
それでもこの苦しい状況で、分かることがただ一つあった。
明日、に会おう。
そして会うなり抱きしめて、ずっと言いたかったことを言おう。



忘れてはならない


強く警告するその






(なあ、その緑の髪の毛、綺麗だな)



タイトル「repla」さま












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