「お、おぉ…また負けた…」
目の前の手札を見ながら、私は絶望した。
私の手には七枚のカード。そして安形の手には、ああもうなんてこった!からっぽだ。
「かっかっか。上がりだ」
その手に残されたのは月が描かれた綺麗なカード。それを綺麗に放り投げて、安形はいつものように笑った。
「これで3勝目だな」
「むかつく」
大体頭を使うゲームで安形に勝てるわけがないのだ。全くこの男は自分の頭の良さをいまいち理解してないから腹が立つ。いや、理解しつつ私に勝負を持ちかけているのだったら、ああ余計に腹が立つったら!
「このゲーム面白いけど、安形ばっか勝つからつまんない」
「かっかっか」
安形が持ってきたゲームは、こないだガチンコビバゲーヒルズとかで使った新しいカードゲームらしく、札には太陽やら月やら可愛い印が描かれている。これを使いながら頭を使いながら最終的には手札をなくしていくゲームだ。ダウトによく似ているけど、こっちの方が綺麗だし、私はたちまち夢中になった。
けれど、いっこうに勝てないのだ。安形が強すぎてつまんない。
「もいっかいするか?」
「いい。もういいよ」
私は自分の手札を放り出し諦めた。多分あとひゃっかいやったって安形には勝てないだろう。
「椿とか道流とか連れてきてよ。だったら勝てるかも」
「おほっ、随分と自信あるじゃねえか」
「椿は単刀直入の一本馬鹿だし、道流はこういうカードゲーム苦手だもん」
「ミチルがカードゲーム苦手?そうか?」
「だって、いつも私に負けてるよ」
「…あー、そうか」
なぜかそれ以上は何も言わず、安形はしゅっしゅとカードを切り始めた。やらないっつーの!
「あ、ピクシーだ」
妖精が書かれたそれはこのカードの中で一枚しかない。これは最強の手札になるし、最後の切り札にもなる。私はこのカードが好きだ。なんかどきどきする。それなのにいつだってそのカードは、安形の手札に入ってしまうのだ。だから私はピクシーを捕まえられないし、ピクシーを見つけることだってできない。
「妖精って意地悪だよね。私のところには来てくれないんだもん」
「日頃の行いが悪いんだろ」
「安形の方がよっぽど悪いのに?」
「俺にはこんな妖精なんかより、来てほしいもんがあるけどな」
「ほう」
私の話をかわすとは、いい度胸してるじゃないか。
私は安形の切るカードからピクシーをとり、ひらひらと目の前でかざしてみた。
可愛いピクシーが一本足で立ち、俯いている。
あーいいな、かわいいな。妖精って女の子の憧れの存在だよね。ティンカーベルとか超可愛いもん。パックも超可愛いもん。

「うい」
「次の勝負で勝ったら、今日こそ話聞いてくれ」
「やだよ」
どうせまた、好きだとか付き合えだとか愛してるだとか言うに決まってるのだこいつは。
それもまた真剣な顔で、どうしてかいつもの飄々とした態度は見せず、それが私には怖かった。
だって、それを信じてしまったら、私はきっとこいつに溺れてしまう。
私は羽を失った妖精にはなりたくない。
だから、ぴしっとピクシーのカードを安形に投げつけ、私は立ち上がった。
「帰るね」
安形はそれ以上私を追いもしないし何も言わない。鞄をひっつかんで生徒会室を後にする。

私はこいつが嫌いだ。大嫌いだ。
ぜんぶ嫌いだ。
本当は全て見透かしているところとか、いやでいやでたまらない。

うるさいよもう。
あんたを好きだよと私も言ったら、私はもう、もう、もう、



ぴしゃりと閉じられた扉の向こうで、安形が机を叩く音が聞こえた。






さよなら妖精さん



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全然題名と合ってないという素敵なメフタファー。(カタカナ語を使えばいいというものではない)
安形が報われてないけど、こいつはこのぐらいの報いを受ければいい。(上手い←全然)
お題は「repla」さまからお借りしました。












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