君が手当てをする手付きはとても手慣れたもので(ああ、もう三回も「手」を連続してしまった!)、医者を親に持つボクでさえ惚れ惚れしてしまう。 「ほい、できたよ」 「ああ、ありがとう」 真っ白な包帯に抱かれた左手は痛々しかったが、が丁寧に手当てをしてくれたからそんなの気にもならない。 「は手当てが上手だな」 「唯一の取り柄です」 「そんなことない」 「そんなことあるよ。私可愛くないし、馬鹿だし、性格悪いし、変だし。ちょっとはいいところないとって神様がくれた唯一の取り柄なのだよ」 「は馬鹿でもないし性格も悪くないし可愛いし変なところもボクは好きだ」 「(…ああ、変なところは否定しないのね)、うん、ありがとう。椿はお世辞が上手だなぁ」 「?世辞ではない」 ボクが心の底からそう言っても、はけたけたと笑うだけだった。 全くいつまで経ってもボクたちはこんなのだから、ちっとも進まないのだ。 はボクの言うこと全てを冗談だと信じているし、ボクはボクでこんな言い方しか出来ないから、全然前へと進めない。まだるっこしい。愚か者めと自分の声が聞こえる。 もう少し言い方を変えようかと思っていると、ががたがたと立ち上がり、救急箱を片付け始めた。保健室で救急箱を片手に自然な顔をしている彼女はまさに生れながらの看護婦で、まるでナイチンゲールのようだった。 ああだからかもしれない。ボクは彼女があまりに清廉すぎて、これ以上言葉を出せないのだ。 彼女の愛はもっと多くの者に向けられねばならない。ボクなんかが、彼女の愛を独り占めすることはできない。彼女は多くの者の救いになることができる。ボクはそれをわかってしまった。 …わかりたくなかった。 「どした?椿」 「わかりたくないことを知ってしまった」 「なんじゃらほい」 「は、ナイチンゲールのようだな」 正直に言うと、はまたけたけた笑うかと思ったが、ちょっと真面目な顔で黙った。 「ナイチンゲールのように、君は多くの者を救う運命なのだろう。だからボクなんかが君を独占してはいけないのだ。そう思ったら悲しくなってしまった」 「そっか」 「ああ」 はそれ以上何も言わず、帰ろうか、と言った。ボクは生徒会があるからとに断った。 じゃあね、ばいばいと手を振り、出ていく寸前にが何を言ったか、ボクは結局わからなかった。 ナイチンゲールの 境界線 (あなたのために、私は小鳥のナイチンゲールになってあげる、って言ったんだよ。 あなたのためだけに私は鳴いてあげる。だからどうぞ、悲しくなんてならないで) ------------------------------------------------------------------------------------------- 椿は爆弾発言を死ぬほど残してくれればいい。 お題は「repla」さまから。 |