苦しくて苦しくて、思い切り安形に後ろから抱きついた。
安形は何も言わず私が作ったクッキーをばくばくと食べていた。

私は何も言えずただ泣きそうになりながら安形の背中に顔を押し付ける。安形の背中は広くて落ち着く。私のすべてを受け止めてくれるのではないかと錯覚してしまう。
…」
じゃり、と安形がクッキーを噛みしめようやく私に振り向く。

「このクッキー、原材料岩かなんかなのか?」
「あああああああああああああああごめんなさーーーーい!!!!!」
そこで私は泣いてしまう。
だって、だって、だってさあ!!
なんだよなんだよ!初めて作ったクッキーがまるで岩石のようってなんなんだよ!!!
そして安形の歯も一体どうなってんだよ!!
「は、初めて作ったにしてもひどすぎる、よねえ…」
「武器としては有効だと思うぞ」
「じゃあ安形いつもクッキー仕込んどいて、生徒会に変なことする人がいたら使って!」
「使えるかボケェ!!」
「大丈夫、誰も死因がクッキーだとは思わない!」
「お前自分でもそのクッキーに殺傷力があること自覚してんのか!そんなもん俺に食わせたのか!おいてめぇ」
ぐぎぎと安形が私の首を絞める。苦しいーと私はまた泣く。
ああどうしてなの。どうして料理さえ上手く出来ないの。ああもうったら!泣きそうよ!(あ、泣いてるか)
「ああ、こんなんじゃ、受け取ってもらえないよね…」
苦しくて苦しくて(安形はもう首から手を放していた)、私は悲しくて悲しくて、また泣く。安形は私の目の前にティッシュペーパーを置いてくれる。それで心おきなく洟をかんだ。
「素直に買ったやつにしたらどうだ?」
「だ、だって」
名前を言おうとして顔が赤くなる。心で名前を思うだけで、胸がどきどきする。
「し、榛葉くんのファンの子っていっぱいいる、から、渡すもので少し差をつけない、と…!」
「殺傷力なら一番だと思うぞ?」
かっかっかと笑う安形が悔しくて、私は思い切りビンタしてやった。
「おい、お前もしかしてスタンドでもついてんのか?ビンタめっちゃ痛いんすけど」
「そんでそのスタンドは料理も殺人兵器にしてしまう力があるんでしょうがー!ああああああ!!!」
「スタンド名はポインズン・クッキングだな」
「馬鹿ぁ」
もう一度ビンタが来るかと思っていた安形は身構えていたけど、私はしくしくと泣くだけだった。
好きになって初めてのイベント。バレンタインデー。
告白しようだなんておこがましい気持ちは持っていない。ただ彼に美味しいものを食べてほしかっただけだ。
そして私の名前を知ってほしかっただけだ。このクッキーを渡せばきっと私の名前を覚えると思うけれど、そんな認知度はいらない。
「私のばかぁ…」
泣く私の頭を、安形はぽんぽんと撫でてくれた。それが心地よくて私は幼い日に戻る。
小さな頃からずっと一緒にいたね。好きな食べ物嫌いな食べ物ぜんぶ知ってるね。好きなこと嫌いなことぜんぶ分かってるね。
そして私の好きな人のことも、ぜんぶぜんぶ、気付いているね。
「まあ、大切なのは気持だ」
安形に似合わないありきたりなことを言って、もう一つクッキーを噛みしめる彼。
クッキーはロードローラーが道路を走っているのではないかと思わせる音を立てて砕けた。
「あいつだって絶対に嬉しいはずだぜ。から貰ったら」
「そんなことないよぅ…榛葉くん私の名前だって知らないもん…」
「俺は嬉しかった」
撫でてくれる手がいっそう優しくなって、私は顔をあげる。
いつものおっさんくさい笑顔がそこには待っていて、私は泣いているのに笑ってしまった。
が初めて作ったクッキー、食べれて嬉しかったぜ」
「安形」
ありがと、と言って、私は安形に抱きつく。
いつもいてくれた幼馴染。安形は腹黒いけど優しいから、私はこうやって甘えてしまう。
今日家に帰ったら、もっともっと美味しいクッキーを作ろう。
そして安形も美味しいって言ってくれたら、それをあの人に渡そう。
だって、好きなんだもの。すごくすごく好きなんだもの。
ああ、好きという気持ちがそのままお菓子になればいいのにね!



間違いたい年頃



は本当に鈍くて俺は時々自分が泣きそうになるのだけれど、それでもこの関係に甘えてしまっている。
人を殺せるクッキーだって、どんなもんだって、の作ったもんを一番に食べられた俺は嬉しい。
ああ好きな人を思って泣いてしまう可愛い奴、本当は誰にも渡したくなんてないさ!
とりあえず、今度道流にあったら問答無用でぶん殴る(顔を)ことを決心して、俺はもう一度クッキーを口に運んだ。

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ハッピーバレンタイン!!(早い)安形が可哀想な話が出来ましたヽ(´―`)ノ
安形の話が少ないなあと思って書いたんだけど…ごめーんね☆
タイトルは「repla」さまから。
2009/2/7







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