道流と私は毎日出会う。学校で、お休みの日は外で、お互いの家で。それでも足りなくて、私たちは毎晩電話する。大体一時間くらい、たわいもない話ばかり、でも止められない。
電話をかけてくれるのはいつも道流の方。道流は生徒会のお仕事があって、帰るのが遅くなることが多いから。
『もしもし』
彼の声が私は好き。電話で聞く彼の声は、いつも聞く声よりも低くて遠い。それでもこれは、道流の声。体温や香りがなくても、彼が近くにいてくれる。私の為に時間を割いてくれる。私は彼が好き。
「もしもし」

今日は、ふとした用事があって、電話に気がつかなかった。道流から二回着信があり、最後にメールが入っていた。
『ごめん、もう寝ちゃってたのかな?明日朝早いから、俺ももう寝るね。電話出来なくてごめんね。おやすみ』
気付かなかったのは私のせいなのに、道流は謝っていた。そんな彼が微笑ましくて、少しだけ罪悪感があって、私はメールを打つ。
「気付かなくてごめんね。明日また学校で会おうね。ゆっくりおやすみ」
そのまま、送信してベランダに出た。
冬と春の混じり合うこの空気が好き。まだ少しだけ白い息が好き。空を見上げると星が出ていた。私に分かるのはオリオン座だけなので、その星座を指でなぞる。
もし、さっきのメールを送らなかったら道流は心配するだろうか。たった数時間、私と連絡とれないことが不安になるだろうか。
そう思っていたら、さっき私が送ったメールを取り返したいような気がした。
電波に乗って道流の携帯にたどり着き、さっき送ってしまってあの短い数文を取り戻したい。
そうして、明日彼の困った顔が見たい。
彼に、心配そうな顔をして抱きしめてもらいたい。
「ああ、。心配した」
彼はそう言ってぎゅうとしてくれるだろう。それは悲しいけれど甘い想像だった。
でも私はメールを取り戻せない。だって送信ボタンを押してしまったのだもの。
だから部屋に戻って、そのまま眠った。
明日道流に会ったら謝ろう。電話に出れなかったこと。そして、さっき思った意地悪な考えのこと。
「ごめんね、こんなのでも好きなのよ」
ベッドの中で呟く自分の声は掠れて他人のようだ。
まるで、電話の声みたいに。


こんなにもけてしまった


(私、本当は電話なんて嫌いなのよ)


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ひゅうと空を飛んでメールを取り返したくなる時。
心配してもらいたいって、酷い考えだけど時々考えちゃってやんなっちゃう。
タイトルは「repla」さまから。
2009/03/06






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