空が遠かったので手を伸ばしてみたけれど届かなかった。残念、と言い煙草を咥える私の後頭部を平手が襲う。
「痛い」
振り返るとそこにはいつものように安形がいた。吸う?と箱を差し出してみたらもう一度頭をはたかれた。
「なにさ」
「かっかっか。、馬鹿なことしてんじゃねーぞ」
「馬鹿なことじゃねーし」
「体壊す。似合わない。可愛くない。にはおかしい。吸ってほしくない。俺の赤ん坊産めなくなる」
「最後、なんだって?」
思わず平手をふりかざしながらそう尋ねる。けれどいつだって私の手は最後までたどり着けたためしはない。安形の頬ぎりぎりのところで止まり、にやにや顔をぶったたけたためしがない。くそったれ。
「俺の、子供を、お前が、産めなくなる、っつってんだよ。このすっとこどっこい」
黒い笑顔で笑う安形は随分と怖かったが、私はそのまま煙を顔に吹きかけてやった。
安形がむせ、私は笑う。馬鹿だねえ、と私は笑う。
「馬鹿だねえ、私なんかに関わるから」
そ、と安形の髪の毛に触りそう囁く。私は意地悪だと本当に思う。安形が私に触れる瞬間は飛び跳ねて逃げてしまったから。
それでもこの手の中には、さっき触った髪の毛の感触が残っている。ああどうしよう、あれは随分と手触りが良かった。
「誰も私なんかに関わろうとしないよ?もう退学寸前だし」
「お前が退学になったら俺がお前んち押しかけて勉強教えてやる」
「いらねーよ」
煙草を指で飛ばし鼻で笑う。消えない煙草はどこへ行ったのやら、一瞬で見えなくなってしまいました、とさ!
「いったいあなたは私のどこがいいの」
煙草を吸うし退学寸前、親からも見放され友達は一人もいない。こんな私の、どこがあなたは欲しいの?
「壊れそうなところ」
「ばぁか」
「折れそうなところ」
「あぁほ」
「死にそうなところが、たまらなく好きだ」
「馬鹿ね」
真面目な顔でそんなことを言って肩を掴むもんだから、私は苦しくて眉をしかめた。肩は痛くない。痛いのは心臓だ。ちくしょう。

名前を呼び私の髪の毛に震える手で触れる。
そんな人を私もまた、関わりを消せない。消してしまったら寂しいから。寂しいから私は今日も見つかるところで煙草を吸い、馬鹿と言うのを待っている。
「好きだ」
壊れものを包むように、折れそうなものをいたわるように、あなたは優しく抱きしめてくれる。
そんなことが苦しくて苦しくて、煙草を吸うより苦しくて、私は少しだけ泣く。
ああでも涙なんてこいつに見せてやるもんか。見せてあげたらきっと図に乗って、もっともっと私を好きになってしまうから。そして私もそんなあなたを見て、もっともっと好きになってしまうから。
私もあなたが好き、大好き、愛してる。強く見えるところも、私に触る手が震えているところも、今こうして私の肩に顔を埋め泣いているところも、ぜんぶ、たまらなく好き。
空に手が届かなくてもいいと本当は知っていた。目の前にいるこの人にさえこの手が届けばそれでいい。それでいいの。



清くも正しくも美しくもない


その様のなんと愛しいことか




(私もあなたも大変醜いけれど、でも愛しているからそんなことどうだっていいわ。空は綺麗だけれど)
---------------------------------------------------------------------------------------------------
不良ヒロインを書いてみたくて書いてみた。
煙草すってりゃ不良に見えるというわけでもない。”(  ゚,_ゝ゚)バカジャネーノ”田仲さん。
あと最近私の書く安形いい子過ぎて気持ち悪い。なにこれ新手の反抗期?お母さん悲しい。
お題は「repla」さまから。
2009/1/20




inserted by FC2 system