お前はいつだって俺の言う事を聞かない。
お前はいつだって、俺の斜め前を見て煙草をふかしている。
お前はいつだって、いつだって、笑ってなんかくれない。





さあキング、あなたのクイーンは



既にして喪われた






煙草を見つかって停学、そして謹慎がやっと解けたと思ったら、は髪の毛を深い緑色に染めていた。俺はぎょっとして思わずの頭を隠す。
「おいてめえ、生徒会長に喧嘩売ってんのか、え?」
「別にぃ」
そっぽを向くと、緑色の髪の毛がふわりと揺れる。それは植物のように蠢いて、生きているようだと思った。
「謹慎解けたばっかで髪をそんな愉快な色に染めるとは、いい度胸じゃねえか…!」
はらわたが煮えくりかえるような、でも少しこそばゆい、よく分からない気持ちに挟まれて俺はもやもやと言い捨てた。
「愉快な色?私は綺麗な色だと思ったから染めたのよ」
そう言っては、髪の毛をなびかせた。その仕草が大変美しかったので、俺はどきりとする。こいつはなんて卑怯なんだ。
「それに髪の毛ぐらいでああだこうだいう学校じゃないでしょう」
「まあ、そりゃ、」
頭の中に金髪の元ヤンキーや、へらへら笑っている茶髪の庶務が浮かんだ。
けれど、少しは大人しくしてほしかったのだ。せめて、謹慎解除一日目ぐらいは。
そんな俺の願いも空しく、は髪の毛を葉っぱのような色に染めてきた。どうなんだこれ。ああ椿に見つかったら
「先輩!その髪は一体なんなんですか!!」
思ってるはしから、椿がずかずかと近づいての頭を指さした。は真顔で言い返す。
「綺麗でしょう?」
「校則違反です!」
「だったら染めてる全部の人を捕まえなさいよ、お固い副会長さん」
ふふんとは笑う。ぐうと椿がつまり、俺は間に割って入る。
「椿、こいつには俺から厳しく言っておくから、とりあえずお前は授業行け。な?」
丁度チャイムが鳴り、椿はまだぱくぱくと口を動かしていたが、仕方がなく踵を返した。俺は少しだけ安心をして、を睨む。
はチャイムが鳴っても急ぐ気配なく、ぼんやりと髪の毛をいじくっていた。

「なによ」
「生徒会室に来い」
「あら、サボるの?」
「うるせぇ」
無理矢理手を引き、生徒会室にを押し込む。本当はこんなことしたくない。いや、望んでいた?よく分からない。の腕はひんやりと冷たく、俺の手はじくじく熱い。
「安形って意外と頭固いよね」
「お前のせいだ」
「あら、そうなの」
は無意識にポケットから煙草の箱を取り出す。俺は慌ててそれを奪い、手の中で潰す。
「ちょっと、返してよ」
「馬鹿かお前。いい加減にしろ」
「もう、いいじゃない私なんて」
はそう言って微笑む。いつからか、こいつの笑顔に諦めたような、やけくそのようなものが現れ始めた。俺はそれが嫌で嫌でたまらなくて、色々とこいつに言ってきた。
でもはいつもそれに背中を向け、自分の道を勝手に進んで行ってしまった。
別に俺の描いた道をそのまま沿ってほしいわけじゃなかった。ただ、できるだけ近くで、一緒に歩いていけたらと思っていたのに。
「いい加減にしろよ」
そう言っての細い手首をぎりりと掴む。折れてしまいそうだ。壊れてしまいそうだ。そういつだって、こいつは壊れてしまいそうだと思っていた。
一人で歩いているくせに、その背中が弱々しくて俺はいつも胸が締め付けられる。
「あんたこそいい加減にしなさい」
大きな眼で睨まれる。俺は一瞬何も言えなくなる。それどころか泣きそうになる。どうしてだ、どうして俺たちはここまで遠い所に来てしまった。
だから手を離して、俺はいつものようにを抱きしめる。はどんな顔をしているだろうか。見たくない、見たくない。だってきっと俺を馬鹿にしているに違いないから。
…」
名前を呼ぶ。けれどこいつは決して俺の名を呼ばない。俺の声は弱く掠れ、の肩に落ちる。俺の大きく太い手がを締め付ける。
手が、ふと、緑の髪に触れた。
「なあ、どうしてだ」
「何がよ」
「どうして、緑に染めたんだ…」
一瞬、の体がぴくんと跳ねた。けれどそれは一瞬で、はいつもの口調で返してきた。
「植物になりたかったのよ」
「は?」
思わず体を離しての顔を見る。は斜め下を向いて、小さく言った。
「私はもっと、優しいものになりたかった。人間なんかじゃなく、もっと素直で何も言えないものに」
そう言っては微笑む。それは本当に、何かをあきらめてしまった顔だった。
「なれるわけがないのにねえ」
俺はもうそれを聞くとむちゃくちゃに悲しくなって、を力の限り抱きしめた。細い肩、腕、背中、そして細い緑の髪の毛。
このまま二人で植物に、大きな木になってしまえればいいのに。
足に根が生え、の緑の髪の毛がざわざわと葉になり、俺の太い腕が枝になればいい。そうすれば俺たちはきっと幸せだ。そうだろう?
、好きだ」
「私は嫌いよ」
「このままお前を殺したい」
「いやよ」
鼻で笑い、はそれでも俺を抱きしめてくれる。それが辛くて、怖くて、痛くて、俺は少しだけまた泣いた。
の前でだけ出る涙は、いつも苦い。
俺は本当に本当にこいつが好きなんだ。それなのには、本当にどこかに行ってしまいそうなんだ。



(キングよ、あなたもうクイーンを忘れなくてはならない)



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不良女子高生その3。続いてるような続いてないような。まあ単品でもいけますので大丈夫です。
緑の髪の毛はあれです…新井素子さんの「グリーン・レクイエム」です。
ああああああの話みたいなすげえ切ない泣ける話が書きたい…文章力が…ねえ…orz
そしてこの二人どこへ行くか全く田仲にも分らないんですが。あああああああ。
タイトルは「repla」さまから。
2009/03/19




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