「えーなに?ボッスン、と喧嘩したんかぁ?」
ヒメコが顔を覗き込んでそんなことを言ってきたもんだから、オレは思い切りヒメコを睨んだ。
「しらねーよ。あいつが勝手に怒ってるだけだよ」
「女の子怒らすなんてボッスンほんまに最低やなぁ〜」
そんなことを言いながら、顔がにやにやとしているもんだから余計に腹が立つ。どうやらヒメコはから色々と話を聞いてそうだ。何をどう勘違いしてるのか知らねえけど、とにかくムカつく。
「お前には関係ねーだろ」
「関係ないことあらへん。はウチの大事な友達やし、ボッスンは部長やし」
『それにこんな面白い状況を見過ごすはずがない!!』
突然スイッチまで出てきて、オレはもう本当に、いらいらして叫ぶ。
「うるせーよお前ら!いい加減にしろよ!!」
「あらもう思春期の男の子は怖いわねえ」
『はっはっは、全くだな』
「母性キャラも父性キャラもやめえ!!」
二人の頭に突っ込みを入れたところで、部室の扉が開いた。
立っていたのは、仏頂面をしただった。
「ちょっと、藤崎」
がオレのことを名字で呼ぶのは、機嫌の悪い証拠だ。
「なんだよ」
「話、あんだけど」
「話すことなんてねーよ」
そう言い捨ててしまって、しまったと思ったけれど、怒りの方が勝ってしまって、オレは背中を向けていた。背中を向けると見えるのは窓だけ。外はこんなに明るいのに、どうしてオレは今こんなにいらいらしているんだろう。
「藤崎」
の冷たい声が響く。オレは無視する。
「修羅場やわぁ」
『修羅場だな』
ヒメコとスイッチがぼそぼそと話しているのが聞こえる。おいお前らもいい加減にしろよ。
「藤崎」
気付くとはオレのすぐ背後に立っていて、オレの肩を掴むと無理矢理自分の方へと向かせた。
は唇をきゅうと噛みしめていて、怒ったような、悲しいようなよく分からない目をしていた。思わずじいとその目を見ていると、じわじわと涙が目に浮かんだ。ってちょ、ちょ、
「うわあ!!!泣くなよ!毎度毎度なんなんだよお前は!急に怒って電話切って今日一日無視してると思ったら部室に乗りこんで来てなんで泣くんだよ!!」
「だって、」
ほろり、と涙が落ちる。嘘だろ。
「だって、ボッスン、電話してんのに、ゲームの話ばっかすんだもん」
手の甲で涙をぬぐいながら、は言った。馬鹿馬鹿しいけれど、これが多分、が怒っていたことなんだろう。
「ばか。あほ。考えなし。空気読めない。女の子の気持ち分かってない。ばかあほはげろそんでしね」
「あー…」
酷い罵声も、涙と一緒に流れてくるんじゃ意味がない。オレはため息をついて、の肩に手を置く。
「ごめん」
「…そうやってすぐに謝るのも嫌いよ。ばか」
「はいはい」
泣くの涙を少しずつ手ですくってやって、肩をぽんぽんと叩いて、オレは笑う。
「あたしのこと嫌いになったのかと思った」
かすれた声でそう言うに、オレは、ばかだな、と言ってやった。はぼろぼろと泣きながら、悔しそうにオレの胸を叩いた。
勝手に怒って、気持ちが分からないとそっぽ向いて、あたしのこと分かってよと叫ぶ君。
悪ぃけどオレは女子の気持ちなんていまいちよく分かんねえし、のことを百パーセント理解しているわけでもない。
それでも、どんなことになっても、嫌いになんかならない。それは確かなんだぜ?それを分からないの方が、馬鹿だろう?
「分かったから、泣きやんでください。オレもう心臓が裂けそうです」
「あたしのために裂けるのなら、それでもいいわ」
そう減らず口を叩く君の頬を、オレは思い切りつねってやった。すると君は少し怒って、でも笑った。
そうそう、お前はそうやって笑ってればいいんだ。な!




のことさえ



分からない




(それでも、
は傍にいるよ)

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なんかせっかく電話してんのに変な話ばっかだと、ちょ、もっとなんか優しい会話をしようよ、とか思う自分が歯がゆいぜ。
喧嘩じゃなくて一方的に自分が怒ってるだけだと知ってます。そんで寝たらコロリと忘れるんだよね…知ってます。
でも知ってんだ、そうやって一方的に怒って無茶苦茶言っても、いてくれる人がいるってことをさ!あはは!
ヒメコとスイッチはにやにやしながら見ています。この二人にとってはこの風景は茶飯事なのです。
2009/03/20




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