あの人に会えない時間が苦しい。まるで水の中に沈んでいるよう。息が出来ない。
がぼごぼと私は水中で言葉を繰り返し君の手を求めてたゆたう。あなたはそんなことを知らずに背を向けて去ってしまう。私は涙を流しその涙も私を溺れさせる。苦しい。
悲しい。
かなしい。
まるで体の一部がなくなったようだ。心臓がない。だからあの人と会えない間私は冷たくなってしまう。あの人と会うと私はまた人になる。心臓を取り戻すからだ。
会えないだけでこんなに涙が止まらないなんて、きっとあの人は私そのものに違いない。私は私がいなくなったら悲しいもの、だからきっと、あの人は私以上のものなんだわ。
あなたの手に触れたい。あなたの唇に触りたい。あなたの髪の毛を掴みたい。あなたの背中に抱きつきたい。
かなしい、私は、かなしい。
「安形」
彼の名を呼び私は苦しむ。名を呼ぶたびに私の心臓が一音一音死んでゆく。彼になってしまった私の心臓。それを食べたのは彼だから、ねえ彼を取り戻さないと私に温かさはないのね?
「惣司郎」
愛しているのにどうして彼は私から離れるんだろう。そんなことわかりきってる。彼も私を愛しているからだ。愛しているから、私たちは近づけない。愛しているから少しの距離を保てないと私たちはどろどろに溺れてしまう。
仕方のない私は涙を流し君の首を絞める。苦しいとあなたは泣き、笑い、そのまま私の体の上で息絶える。私の心臓が死んでしまった。だから私も死ぬしかない。目を閉じるとそこにはやっと温かさが戻っていた。


名前を呼ばれ眼を開ける。そこは生徒会室で、私は安形の机でぐーすかと眠っていた。
「よく眠れんな、こんなところで」
「…おはよ」
ぼうっとした眼で彼を見る。彼はいつも通りおっさん臭く笑っていて優しかった。
なにか変な、悲しい夢を見た気がするけれど思い出せない。私は首を傾げる。
「どした?
「なんでもない。なんか、変な夢見たけど忘れた」
「おほっ、でも変な夢とか見んのか」
「見るさぁー!私だっていちおう悩める乙女よ?」
「すまん、全くそうは見えない」
ばきっ!私の拳が安形の頬に決まる。
「すまん、お前のパンチ冗談にならない」
「私のことを馬鹿にした仕返しよ!」
そう叫び鞄を取り先に扉の前に立ちふさがる。安形は頬を抑えながら笑っていたが、やがて私の前に立つ。顔を上げないと安形の顔が見えない。背の高い彼。彼はそのまま私の頬に手を置き、ゆっくりとキスをしてくれた。
愛されている。とてもとても愛されている。そして私も安形を愛している。
それなのにどうして、時々悲しくなるのかしら?
信じている、信じてるわもちろん。
でもそれだけじゃ説明できない胸のざわめきが私に時々夢を見させ、こうしてキスしているのに涙を流させる。
ねえどうして?
どうしてこんなに悲しいの?
ねえ神様。神様。神様。神様。






こんなに




悲しいのなら




私はあなたと




出会わない方が




良かったの?




(でも出会わなければ私はきっと死んでいた)


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好きな人といると苦しくなるんだけど、あれってどうしてなんかね。
一緒にいるだけで幸せなはずなのに、同時に凄く不幸になるのはどうしてなんかね。
会わなければ泣かなかったと思うけれど、会えなければ笑えなかった。
どうすればいい?
つかこれ、安形じゃなくてもいいんじゃね?
どうすればいい?(まじめ台無し)





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