椿と私は幼馴染でずっと一緒にいるから、この人の嫌なところも全部知ってしまっている。
付き合いが長いというのは残酷なことだ。私は椿がおねしょしたことも知っているし小学校低学年までお化けが怖くて泣いていたことも覚えてるし、今でもてんぱると変な顔になることも承知している。
椿だって私がおむついっちょうで走り回っていたことを知っているし、アニメのぎでぃちゃんが怖くて泣き喚いたことも覚えてるし、今でも数学がよくできないことを承知している。
ねえ、お互い、お互いのことも気持もよく知っているんだよ。
でも、私たちはなあんにも言わない。
今でもグラウンドの端の空が赤から紫に変わりゆくのを見ながら、私は鼻歌を歌いながら、椿は仕事をしながら、時間を潰している。
、暇なら帰れ」
「うっさい。今日はうちキムチ鍋なんですぅー。でもみんな小食だから椿がいないと残っちゃうんですー」
「…どうしてお前の家族は物凄い量を作るんだろうな…」
「みんな椿に来てほしいんだよ。うち、もう、椿用の箸とかあるしね」
「…そうか」
かあと鴉が鳴いた。私の心も少し泣いた。
下を向いて仕事をしている椿が寂しかった。昔はこんなんじゃなかったのにねえ。昔は、昔はさ、椿の首にかじりついてじゃれあってぼこって怒られて泣いてでも仲直りとかできたのにねえ。
冷たい生徒会室の机に頬をつけて、私はちらりと椿を盗み見る。
椿の長いまつげ(椿は下まつげだけじゃなくて上まつげも長いんだよ!)に夕暮れの影が落ちて綺麗。あ、前髪が少し乱れてる。直してあげたら怒るかしら。今日は寒いから、手袋つけた手でこっそり直してあげたら、許してもらえるかもしれない。直接椿に触らなければ、怒られないかもしれない。
そんなことを思っていたらじんわりと涙が出てきて、でも私は椿に見られたくなかったから下を向いた。机に息があたり、そこだけ水滴がつく。机に何かが落ちて、そこだけ濡れる。そのまま寝たふりをした。
?」
しばらく経ったあと椿が私の頭を揺する。私はまだ寝た振りをして知らんぷり。
「仕事、終わったぞ」
その声を聞いてようやく、んあ?とわざとらしく顔を上げる。そんな演技なんてしたくないんだよー本当はさー。
「帰ろう」
「はあい」
どうせ、うち、キムチ鍋だけど椿来ないんでしょ。椿最近全然うち来てくれないもんね。おとんもおかんも寂しがってるのにさ。キムチ鍋、めっちゃうまいんだよ。辛いけど、具だくさんでめっちゃうまいんだよ。ねえそれでもあなたは来ないんでしょう?
「椿」
「なんだ」
「…なんでもない」
かかとをはきつぶした上靴を引きずりながら、私は上着を羽織る。椿も帰り支度をして、最後にじゃらりと部屋の鍵を掴んだ。

「なによ」
「今日、お前のうちに行っていいか」
「え?」
私はとんでもなくびっくりした顔をしていたんだろう。外はもう夕焼けから夜に変わっていて、赤が紫に染まっていて、いやもう、外は黒になりかけていた。
それなのに椿の顔だけはしっかり見えた。長いまつげ、ちょっとだけ乱れた前髪、大きな三白眼の目、そして口元は、にこりと笑っていた。
「キムチ鍋、あるんだろう?」
「う、うん!あるよ!めっちゃうまいの!あるよ!ねっ!うまいのっ!!」
「やっと笑った」
「え?」
の笑った顔は可愛いな」
笑ったままで、でも、真面目な眼でそんなことを言うもんだから、私の頭はぼん!と爆発してしまった。体中の熱がいっぺんに顔に集合する。耳から湯気が出てきそうだ。ぷあー!
「ななななん」
「ん?…ん?」
やや経って、椿がようやく自分の言った事に気づいたように、眉をひそめそしてやっぱり、ぼん!と爆発した。
「いいいいいいいやボクはそのただ事実を言っただけでそのあああああ」
私は恥ずかしくて赤い顔を見られたくなくて思わず椿の肩に顔を押し付ける。ぼん!二回目の爆発が椿の頭の方から聞こえた。
「すすすすすまな」
「謝らないで!」
私は叫ぶ。顔を椿の肩に押し付けたまま。ああ昔は一緒の身長だったのにね、それなのに今は、あなたの肩のところにちょうど私の顔が来るくらいだよ。私は小さくなってしまった。椿は大きい。
「え」
椿の顔からしゅうしゅうという音が聞こえそうだった。私はすごくすごく恥ずかしかったのだけれど、声を絞り出して言う。
「う、嬉しかった、から、謝らないで、下さい」
佐介。
そうして久しぶりに名前を呼んであげると、佐介はやっぱり、ぼん!と爆発してしまった。
そしてそのまま私をひっぺがすとだあーっと逃げてしまった。鍵も置いて。鞄も置いて。なにかも、私も置いて、私はぽかんとして佐介の行ってしまった後を見る。
「ちょ、キムチ鍋ー!!」
そしてそう叫びながら、佐介の鞄と部屋の鍵をひっつかんで、走り出す。

ああもう、本当にこの人はね。
でも、そんなところも好きなのよ!






言うだけ言って



(本当に、あなたったら!)

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こんなカップルいたらいやだなーと思うけど、ああ、悲しいかなこれちょっと実話なのよね。
あああああキムチ鍋食いたい!!( ´∀`)つ―<二:彡- イカヤキ
お題は「repla」さまから。








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