冬は嫌い。寒くて手がかじかむから。吐く息が白いのも嫌んになるわ。だって寒いってのを証明してるんじゃない。冬は嫌いよ。窓に付く水滴さえ、いらいらする。雪なんてだいっきらい。ただの白い塊を投げ合うなんて信じらんないわ。
ああ、早く春にならないかしら。
「椿君、あなたは冬が好き?」
「え」
二人でてくてくと帰っていた時にそんなことを聞いたもんだから、椿君は不思議そうな顔で私を見た。私は息を静かに吐きながら言った。
「私は嫌いよ。寒いもの」
「ま、まあ確かに寒いのは大変だな」
「そんな言葉を聞きたいんじゃあないわ」
私は冷たい手で、椿君の頬をぺちぺちと叩く。手がひやっこくて椿君は目を細める。
「ああ、。寒いのなら早く帰ろう」
「その家にまで帰る道のりが寒いのよ。私もう一歩も動きたくないわ」
そう言ってしゃがみ込む。椿君は困った顔をした。

「温かい飲み物が欲しいわ」
「帰り道の飲食は禁止…」
「今よ。今」
椿君はため息をついた。そして、鞄から自分の水筒を出してきた。
「はい、保温ポットだからまだ温かいはずだ」
中に入っているのは椿茶かしら?私は黙って受け取る。飲んだけどそれはぬるくて、眉をしかめる。
「おいしくないわ」
「早く帰ろう」
手を引き椿君は歩く。私はしぶしぶ付いて行く。椿君の手さえ冷たい、そんな冬って本当にもう、うんざりだわ。
「春になりたい」
「待てば春になるさ」
「今よ、今」
「分かった」
椿君は私の手をとったまま立ち止まった。そしてくるりと私に向き直る。椿君の頬は寒さで赤くなり、眼は冷たさでうるんでいる。

そうして彼は私を抱きしめた。
冷たいコートが私の頬にあたり、冷たい頬が私に触れる。
冷たい彼の髪が私の髪をくすぐり、冷たい彼の手が私を強く強く抱擁する。
「寒いわ」
「これでも?」
ぎゅうとぎゅうと、彼は離したくないというように力を込める。
「ボクは温かい」
そう言って彼は私の肩に顔をうずめる。彼の髪の毛が冷たい。彼の体温が冷たい。
それでも私は幸せな気持ちになってしまって、だから冬は嫌いなのよ、と彼を抱きしめた。




冬が嫌いな彼女





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とにかく部屋が寒いんだよぉおおおお。明日から三月とか嘘だろぉおおおお。
田仲のヒロインはわがままが多いですね。田仲がそうだからですか。そうですか。
2009/02/28







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