「つつつつつ椿のばかぁーーーーーーーーー!!!」
あたしはそう叫んで椿の顔に教科書を投げつけた。べしん!という良い音がして椿の綺麗な顔に赤い痕が付くけれど、その時はそんなこと見もしなかった。後になってきっと後悔するのだ、いつだってそう、いつだって!
ああもう自分で自分がやんになるわ!!
でもね、どうにもなんないのよ!だってこれがあたしなんだもの!!
「何が馬鹿だ」
椿は教科書の埃を払うとすぐに渡してくれた。あたしはそれを受け取らず払い除ける。
「馬鹿よ、あんたは」
「何故」
「あたし、あんたなんて大嫌いなんだからね!」
「で?」
椿の三白眼の目がぎろりとあたしを向いて少しだけ言葉が詰まった。ごめんね、とか言いたいけれどこの口は勝手に喋ってしまう。ひらひら、ひらひら、動く口はきっと後で恨めしくなる。
「だからもう一緒には帰らないわ」
「そうか」
「さよなら、椿くん」
精一杯の厭味な顔であたしは椿を睨みつけ立ち去る。
ああもういや。いやなのよ。自分も、椿も、全部嫌。
ただ一緒に帰る時に、もう少しゆっくり歩いてって言いたかっただけなのに、そんな可愛いこと言えなくて、気付いたら馬鹿、なんて。馬鹿みたいなのはあたしのほうですう。
でも女の子と歩いているんだから、ゆっくり歩いてくれるのは男として当然でしょう?あたしわがままなんて言ってないわ。手をつないでなんて言ってない。肩を抱いてなんて言ってない。ただ歩幅を合わせてほしかっただけよ。まあ実際には言ってないけどさ。でもそんなこと、言う前に気が付いてよね!!
唇をぎゅっと噛みしめてずかずかと明るい街を歩いた。ああ、あたしの足音がなんてかわいそうに響くんだろう。だって今のあたしはひとりぽっち。さっきまで二人分の足音が聞こえていたのに今はひとつしかなくて、かわいそう。かわいそうなあたし!
「おい」
あたしは振り返ってやらなかった。振り返るもんか。馬鹿じゃないだろうか。
「おおい」
知らんぷりをして歩く。けれどもう一つの足音の方がよっぽど早い。気が付くとあたしの目の前に椿の顔があって、ずいと教科書が渡された。
「忘れ物だ」
「…」
「宿題があるのに忘れるとは愚かだな」
「…」
「それに」
あああなによもうさっさとどっか行ってよ。
あたしあんたなんて嫌いって言ったじゃないの。あたしあんたなんて大っきらいよ本当に。それなのにどうして今、下しか向けないのかしら?
何かが落ちちゃいそうなのよ。
でも椿はあたしを置いて行かず、息を吸い込み怒ったような声でこう叫んだ。
「ボクを置いてくなんてお前は愚かだ」
「え?」
そして驚いて顔を上げたあたしの手を掴みそのまま家路を急ぐ。椿の手が熱い。熱くて、あたしごと溶けてしまいそう!
「ボクを忘れるな」
その後初めて下の名前を呼ばれ、あたしはただただ、椿の手に付いて歩くしかなかった。
目の前がぼやけて、椿の手が暖かくて、胸がすごくどきどきしていたけれど、こう言うことしかできなかった。
それでも椿が笑ってくれたから、だから、いいよね?



「歩くのが早いのよ、


馬鹿」




(全てを分らなくても、今こうして名前を呼んでくれるあなたが好きよ)

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ツンデレって書いたことないと思って書いてみた。ヒロインよりむしろ椿の方がツンデレじゃないのだろうか。
手がかじかんで上手く書けません。早く夏になって。
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