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「椿、お腹減らない?」
「いいや」
椿は目を本から離そうとせずに答えた。あたしは目の前にあったコップの水を飲む。別に飲みたいわけじゃなかったけど手持無沙汰だったから。
「部屋暑くない?」
「ちょうどいい」
今椿が部屋にいるのは、あたしが昨日、椿が好きな作家の新刊を買ったからだ。椿は学校の帰りに本屋に寄ったりなんかしないから、平日が発売日の時はいつもあたしの家に読みに来る。あたしもその作家が好きで集めているから。椿が読んでいるのに気付いて読み始めたとかは、内緒ね!
「あ、あのね、トイレは廊下をまっすぐ行った先だよ!」
「知ってる」
椿は相変わらず本に目を落としたまま、あたしの言葉に淡々と答える。あたしは少し悲しくなって腹が立って椿を見る。ねえ、かわいい女の子の部屋にいるんだから、少しは考えたらどう?ねえってば!
「椿」
「なんだ
そこでようやく顔をあげてくれる。椿の大きな眼とばちりと合ってしまって、あたしは心臓が飛び出しそうになる。ああ胸に悪いぐらい素敵な眼の人!
「ご、ご、ごめん邪魔しちゃって。ただ、なんか、困ったことないかなあ、って思っただけなの」
「…すまない。つい読みふけってしまっていた」
椿はううんと伸びとする。そのしぐさにもあたしはどきりとする。椿が息をするだけで、あたしは死んでしまうのではないだろうか。(少し不安になる)
「これ、借りていいか?」
「うんもちろん!って、帰っちゃうの?」
「ああ。これ以上邪魔するわけにもいかない」
「も、もうちょっといてもいいんだよ!ご飯も食べていって!今日椿のぶんのご飯も作るってお母さん言ってた!」
これは本当のことなのだ。お母さんもお父さんもあたしの幼馴染の椿が可愛くてならないらしく家に呼ぶと大喜びする。そんなわけで今日はチゲ鍋なのだ。
「…いつもすまないな」
「す、す、すまないじゃ、ないよ!あ、あ、あ、あのね」
ああどうして、椿の前だとこうどもってしまうのだろう。顔が赤くなってしまうのだろう。手が汗ばむのだろう。あたしは泣きそうな顔でそう思う。
でも、その答えは一つだ。あたしは知ってる。
あたしは、この人のことを、目の前にいるこの人のことを、
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あの、ね、つつつつつつば、き」
「ん?なんだ、?」
どもるあたしに全然嫌な顔をしないで、やさしく椿はあたしの顔を覗き込んでくれる。その瞬間があたしはどうしようもなく幸福だ。この人がいてよかった、と思う。
そんな瞬間があるだけで、あたしは生きている価値があると思うのだ。
「え、ええと…」
「喉が渇いたのか?はい」
椿が水を渡してくれる。それを飲み込み言葉を続けようとする。
「あ、ありがとう。あ、あ、あ、あの、ね」
「うん」
ねえ、椿。
あたし、この台詞ずっと練習してたんだよ知ってた?
鏡の前で、一番可愛く見えるように、一番可愛く聞こえるように、頑張って練習した。
笑って?真面目な顔で?やっぱり笑った顔の方が可愛いかな!
でもね、今のあたしは笑えてるかしら?ううんきっと笑えてないね。真っ赤な顔で、泣きそうな顔で、でもね言いたいんだ。一番可愛い顔でなくてもいいから、椿に聞いてほしいことがあるんだ。
「あた、あた、ああああた、し、」
「うん」
「あた、あたたあ、た、し、つ、椿、が」
椿と名前を言ったらまた心臓が跳ね上がる。目の前にいる人は優しくあたしを見つめてくれる。その目が本当に好きになったのはいつだろう?ああもう覚えてもないそんな昔のこと!
「うん」
お願い、先に言わないでね?この言葉を言うのはあたしが最初なの。だって、あたし椿のことがすごく、すごく
「つば、つばき、が、すすすすすすす」
椿が手を握ってくれる。あたしはそれが嬉しくて頼もしくて泣きそうになる。
でも泣かない。この言葉をあなたに言うまできっと。
だってあたしはあなたのことが
「すすすすすすすす、好きなの」
まっすぐ目を見て、泣きそうな目だけど、でもあなたの目にはちゃんと可愛く映っている?ああもう可愛くなくてもいいよ、この言葉を言えたそれだけで嬉しくて死にそう。
あたし、あなたのことが好き。
「大好きなの、椿」
言葉がこんなに重くてきらきらしてるなんて知らなかったよ。これは涙なの?
椿、好きよ。
「ボクもだ、
もちろん、そう言って椿は笑ってあたしを抱きしめてくれる。幼い日に抱きしめてくれていたのとは少し違う、その大きさと温かさにあたしはやっぱり泣いてしまう。
ああ大好きよ、大好き椿!



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あなたのありとあらゆるところがすき)


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リンの「すすすす、すき、だあいすき」が好き過ぎるんだ( ´∀`)ノ
可愛いヒロインを書いてみたかった。一歩間違えばいつもと同じヤンデレヒロインになるので気をつけた。
次回からはいつもと同じヤンデレか天然ヒロインで行こうと思う。
タイトルは「repla」さまからよりなのだ。
2009/01/23








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